iPadと電子出版について考えた
AppleがiPadやiBookStoreを公表してからというもの電子出版に関する議論が白熱していて面白い。焦点は、「中抜き」による出版社の淘汰とそれに代わるシステムがどうなるかであろう。4年前からiTunes Storeに自社制作音源の楽曲を提供している立場から音楽を例に諸々のことを考えてみた。
確かに既存出版社の中抜きは起きる、と思う。ただ、AppleのiBookStoreに関して言うと、アグリゲーターという形の新しい仲介役が登場し、そこを経由しないとiBookStoreに作品を登録することはできない仕組みになるのではないだろうか。
色々と見聞きしていると、インディ開発者がApp Storeでアプリを提供するように、著述家が個人レベルでiBookStoreに作品を登録する、といったイメージで今回の話題を語っている人もいるようだが、Appleがそんな面倒な仕組みを提供するだろうか。書籍とアプリとでは話しが違う。
たとえば、iTunes Storeの場合、「iTunes Producer」(http://www.apple.com/jp/itunes/content-providers/)に登録することで簡単に自分の音楽を配信できるかのような記述があるが、個人やインディがAppleに登録を申し込むと「ここにコンタクトしろ」とアグリゲーターのリストが送付されてくるのみ。つまり、ある程度実績があり、年間を通じて一定以上のタイトル数をリリースするレーベルでないとAppleとは直に取引できない。iBookStoreも同様の仕組みになると予想している。
音楽のアグリゲーターの場合、日本だと携帯電話コンテンツのフェイスに買収されたライツスケール(http://www.rightsscale.co.jp/)が有名。弊社も当初はここを経由して配信を依頼していた。じゃあ、このライツスケールが、すべての個人やインディに門戸を開いているのかというと、実はそうでもない。やはり、一定以上の実績とタイトルリリースの計画がないと、受け付けてくれない。それに以前は初期取り扱い手数料が無料だったが、1年半ほど前から2000円/タイトルを徴収するようになった。加えて、実績からも2割を差し引かれてアーティストに分配される。つまり、Appleが3割引いて、そこからさらにアグルゲーターが2割をさっ引くわけだ。まあ、それはいい。話しを戻そう。
つまり、Appleにしてもライツスケールにしても、いくら配信だからと言って、それに付随する業務というか労働コストを考えると、なんでもかんでも、ホイホイとロングテールのテールに並べればいいや的な軽い感覚で取り扱うことはできないのだ。音楽の場合、取り扱い業務のすべてをシステムで回すことは難しく、なんらかの手作業的なプロセスが介在する。書籍も同様ではないか。
それは、弊社のようなAppleからみたら孫に位置するレーベルも同様で、iTunesに楽曲を出したいアーティストが縁故でもって依頼してくることもあるが、その業務的な手間(登録業務、管理、売上分配業務等)を考えると、どうしても内容や実績を精査してしまう。
もちろん、弊社のようなインディは、数字だけ追いかけているつもりはなく、「売れそうにないな」と思っても内容が面白ければ、数字は関係なく配信を受けるのだが、何でもかでもウエルカムではない。
iBookStoreにしても同様の力学が働くような気がする。アグリゲーターを介さないと個人やインディはiBookStoreに作品を提供できないわけだ。となると、そこには、一定のフィルタリングが機能して、それ相応の質の書籍がiBookStoreの店頭に並ぶことになる。もちろん、リアル書籍よりも、出版のハードルが下がることは間違いはないと思うが、ブログでも書くかのように猫も杓子もiBookStoreから電子書籍を出せるものではないと思うのだ。
ただし、iTunes Storeへの音楽提供の場合、海外に目をやるとTunecoreやCDbabyといったアグリゲーターが、個人やインディにも広く門戸を開放している。ここを通せば、金さえ払えば誰でもiTunes Storeに作品を提供することができる。上記のようなフィリタリング機能が働かないわけだ。
しかし、それは見かけのことで、実はここでもセルフフィルタリングが存在する。つまり、アーティスト自身が登録する楽曲を峻別するフォースが働くわけだ。それは、配信にコストがかかるから。
たとえば、Tunecoreの場合、10曲程度のアルバムを登録するのに、初期費用30〜40ドル(配信地域やストアの選択数により異なる)が必要になる。おまけに、年間更新費用として次年度から約20ドル徴収される。
で、何が起きるのかというと、「このアルバムあまり売れないから、更新費用もったいない、更新するのはやめよう」「初期費用かかるので、もっと良い作品にしてから配信しよう」というマインドが起きるのだ。Tunecoreは、実績等がいつでも閲覧できるので、登録者(アーティスト)自身がそのあたりのコスト意識に関して敏感になるわけだ。
もちろん、「売れなくても、店頭に並ぶことが大切」という考え方でコストを度外視する人もいよう。だが、そのような意識の人の数は一定数を超えることはないし、そのような人こそ、作品の質に対するこだわりを持つだろうから、おのずと、そこにもフィルタリング機能が存在することになる。書籍も同様な流れになると予想している。
では、既存の出版社がアグリゲーターとしての機能を持ち得るようになるのか、というとそれには疑問符が付く。アグリゲーション業務は、一種の仲介業なので利幅が薄い。出版社が今の業務形態を維持したまま電子書籍のアグリゲーションで食べていくのは至難のワザだ。
電子出版のアグリゲーションビジネスは、単なる仲介業でもなければ、既存の出版社とも違う。なんというか、小回りのきくプロデューサーのような立場の人がリードして、著述家の才能や作品の内容を見極めながら作品をAppleなんかに仲介する、といったイメージだろうか。だから、やろうと思えば1〜2人の会社でもこのビジネスは成り立つと思うのだ。いや、逆にそのような小規模でないと、回せないのではないだろうか。



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