「iPod vs. JASRAC 著作権料2.5億円不払い」の一連のドタバタ劇を見ていて感じるのは、朝日新聞の“超”フライング報道のお粗末さ加減と、世界から浮いた日本の著作権管理スキームの問題点です。
■朝日新聞の“超”フライング報道
実は、これはあまりに偶然なのですが、報道のあった翌日、アップルの広報の責任者と会食をする約束をしていました。そこで聞いたのは、朝日新聞のいい加減な取材姿勢です。
正確ではありませんが、概ね下記のような会話があったそうです。
朝日記者:「不払いを認めるのか認めないのか? すぐに返事をしろ」
アップル:「こちらではわからないので本国に確認するから待って欲しい」
朝日記者:「それでは困る。では、“わからない”ということで報道する」
いやあ、驚きです。私は、音楽制作業以外に、ライター業もしてますが、このようなセンシティブなマターを扱う場合は、両論併記が大原則なのは常識です。それは先輩ライターや編集者に叩き込まれてきました。
しかし、朝日の記者は、JASRAC側の論だけを記事にとりあげ、公平な記事であることを演出するがごとくアップルの「わからない」というコメントをまことしやかに書いています。
雑誌であれば両論併記した上でどちらかに肩入れするのはわかりますが、公平な報道を行うべき朝日新聞がこれですから恐れ入ります。
朝日新聞としては、日本のアップルで「わからない」のであれば、米国のアップル本社に直に問い合わせをして確認するのが、まともな報道機関の在り方でしょう。
面倒なのか、英語が苦手なのかわかりませんが、それを怠って、あのような公平性を欠いた報道をした朝日新聞の姿勢は大問題です。
それにしても、大新聞というのは「お詫び」をしないのでしょうか。
「米アップル社が支払うべき2億5000万円以上の著作権料がいまだに日本側に支払われていない」とあるのは「米アップル社の日本法人・iTunes社はJASRACに暫定使用料を支払ったが、著作権者には届いていない」の誤りでした。見出しとともに訂正します。(アサヒ・コムでは17日に一時掲載)
ひぇ〜! なんて高圧的な訂正なのでしょうか。これではJASRACがネコババしたように理解する人もいるでしょうね。ぜんぜんお詫びになってない。驚きです。
■世界から浮いた日本の著作権管理スキームの問題点
今回の問題で浮き彫りになったもう一つの問題は、iTunes StoreとJASRACの著作権管理スキームの違いです。というよりも、グローバルスタンダードと日本の違いといった方がいいかもしれません。
JASRACの管理規定では、iTunes Storeで販売される楽曲の許諾は「iTunes Storeに出す」という決まりです。そうすることで、配信の主体であるサイト運営者から一括して報告を受け、使用料を徴収します。
しかし、グーローバルスタンダードはそうではありません。たとえば米国などは、権利処理は、基本的にiTunes Storeに原盤を提供する事業者やアーティストが行う必要があります。
したがって、iTunes Store側では、子細な権利処理業務を行う必要がありません。大枠でなんらかの処理が行われている可能性はありますが、細かいことはわかりません。もう一度言うと、「権利処理は原盤供給者」 これがグローバルスタンダードです。
そのため、JASRACが要求する「正確な楽曲データ」とアップルが提出するデータとの間に大きなズレがあった可能性はあります。なので、朝日新聞の最初の報道にあった「アップル側の管理がずさんなため」というのは、ある部分で当たっているのかもしれません。
音楽プロデューサーである私がプロデュースしたアルバムが何枚もiTunes Storeで配信されています。配信を依頼する際に、メタデータを作成して提出するのですが、そこには、権利管理団体の名称とその団体の管理コードを入力する項目があります。
その一方で、団体に管理を委託していない曲(オリジナル曲など)、音楽出版社に信託していない楽曲などもアルバムの中に混在するわけです。そんな曲の中には、有名曲とタイトルが同じものもあるでしょう。
JASRAC側には、おそらくそのような楽曲のデータももたらされていると思います。するとJASRACとしては、それが自分たちの管理楽曲であるかどうかを調べる必要があります。
実演家名、作詞作曲者名などもメタデータとして提出しますので、その部分で判断することも可能ですが、我々のようなインディ系を含め膨大な楽曲数が扱われるiTunes Storeだけに、
朝日iPod記事で大誤報 JASRACが訂正要求の報道にあるJASRACの「実際にiTunesには何百万と楽曲があり正確な楽曲データを作成することは簡単にできず、その作業が時間がかかっているということはある」というコメントは大いにうなずけます。
いや、JASRACのことですから、場合によっては1曲1曲耳で聞いて確認しているかもしれません。なにせ、作家や出版社からあとから管理不備でクレームを付けられるのを嫌う人々ですから。
「AppleがJASRACに払った2億5千万の行方は?」に次の記述があります。ISRC(国際レコーディング番号)が楽曲に付与されていることを前提に...、
ダウンロード販売はPOSレジみたいなもので、販売=データ入力になるわけですから、これだけきちっとしたコード体系があるならば、明細がわからないわけがありませんね。
確かに、ISRCで「誰の楽曲が何曲売れたのか」というレベルではPOSレジと同様に明確ですが、その楽曲がJASRACの管理楽曲と合致するかどうかということまでは、前述の理由でわからないのです。
【追記】ISRCの説明に次の文言があります。「ISRCはレコーディングを識別するためのコードであり、そのものがレコーディングの権利者を示すものではありません。」
したがってこのブログで紹介されている2ちゃんねるの話題のように、JASRACの陰謀的な話はないと思います。
■JASRACの著作権管理スキームがもとでインディが閉め出される!?
私たちのような、インディ事業者にとって、iTunes Storeほどありがたい存在はありません。日本のメジャー系配信サービスは、我々インディを基本的に相手にしません。そんな意味で、メジャーと同じ土俵で戦える場所を提供してくれるiTunes Storeは、賞賛されるべき存在です。
ここでは、アイデアとセンスとインディならではの小回りで、メジャーと互角に戦えるのです。私が一番危惧するのは、今回の問題で、iTunes Storeからインディを閉め出すといった事態に発展しないかということです。
日本の著作権管理スキームの煩雑さにアップル側が音を上げて「管理団体や音楽出版社に信託していない楽曲は取り扱わない!」といったことになったら、我々インディ音楽制作者やアーティストは路頭に迷います。
■JASRACがリークしたのか!?
以下は、2ちゃんねるの引用です。
おそらく、まったく入金がない一部の権利者からその金を分配しろとクレーム殺到中そこで、苦し紛れにアカヒを使い、権利者を納得させる為に、今回のApple未払い飛ばし報道を企画
あははは。うまいこと考えますね。著作権処理における日本とグローバルスタンダードとの違いで苦労しているJASRAC側としては、これを画策してもおかしくはないかも、という気にさせるユニークな意見です。まあ、実際はどうかわかりませんが...。
ただ、前述のようにアップル側から提出されたデータの処理に苦労していることは確かでしょう。とくに、iTunes Storeの場合、ロングテール現象でパッケージメディアでは見向きもされなかった懐かしい曲とかが、少しだけ売れたりします。
そんな1〜2曲しか売れない曲でも作家がJASRACの会員であれば、その作家に分配を行う必要があります。それはそれでコストがかかり、大変です。ロングテールのテールが伸びれば伸びるほど、JASRACの管理コストが逼迫する可能性も否定できないわけです。
つまり、来るべき配信時代にあって、未だにパッケージ時代、マスメディア型、パレートの法則型の管理スキームでいることが問題なのです。完全に制度疲労を起こしているわけです。
「世界から浮いた日本の著作権管理スキームの問題点」で前述したように、米国のようにネット配信においても、原盤供給者が自己責任でもって権利処理を行うシステムを構築しないと、このままではいろいろなことが悪い方向に転がり、結局はこれまで通りの方法論で行こう、ということになってしまいます。
いうなれば、「個」を信用しない日本の著作権管理スキームの問題点が路程した今回の騒動だったといえるでしょう。
iTunes Storeにおける音楽配信の舞台裏の話をもっと知りたい人は、私、山崎潤一郎の下記の拙著をぜひお読みください。
加えて、宣伝させてください。下記はiTunes Storeで発売中の私のプロデュースしたアルバムです。70〜80年代の有名なロック曲をアコギのスーパーテクニックで演奏しています。
『超絶技巧ギター - ACOUSTIC ROCK』 演奏:秋山公良
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2.5億円あれば……
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